18歳…高等部卒業後障がい者福祉施設で働く
知的障がいのある長男は、高等部卒業後、福井県の障がい者福祉施設で働き始めました。学生時代に何度か職場体験にいきました。自宅から通いやすかったのと、職場の雰囲気も仕事内容も本人が気に入ってのことでした。
リクレーションなどの行事も多く、地域貢献もすすんでやっている事業所です。
「障がいがあっても、人生を楽しまなくてはいけない!」という、所長さんの理念も素晴らしいと思ったので、私も大賛成でした。
仕事は厳しくしっかりと育ててくれます。初めは怒られてばかりいた息子も今の仕事には自信を持っていて、頼もしい限りです。
25歳…グループホームに入所
働いている福祉施設の系列で「グループホーム」を作るという話がありました。
もともとあったグループホームは、一軒家でした。てんかんのある息子は発作や体調不良があったときのことを考えると一軒家は不安でした。
新しくできるグループホームは一棟に10部屋あり、夜は世話人さんが泊ってくれるということだったのでこれは安心と思いました。
息子に何げなく「こんなグループホームできるけど、行ってみる?」と聞くと「行く!」と言うではありませんか!「お母さんが死んだらぼくも死ぬ…」と言ってた子なのでびっくり!しました。
施設の方に問い合わせをすると、もう1部屋だけ空いているということだったので、とりあえず申し込みました。
本当に親元を離れてやっていける?不安はありましたが、「ダメだったら帰ってくればいいよ」くらいの軽い気持ちで送り出しました。
想像以上に子離れできていなかった母
入所の朝、いつも通りに「仕事行ってくる」とでかけた息子の後ろ姿は今でも忘れられません。毎晩帰ってこない息子を思って涙が出てきました。娘たちが呆れて引くくらい泣きました。
ほとんどの子が自宅よりホームの方がよかったようです。おかあさんたちは、「この子のために長生きしなければとずっと思ってきたけど、私じゃなくてよかったんだ」と拍子抜けしたと言っていました。
息子がグループホームから帰りたいと言っているという話は聞いたことがありません。それはうちの子だけじゃなく一緒に入所したほかの子たちもそうでした。
29歳…息子との新しいつきあい方
グループホームに入所してから、息子は洗濯も部屋の掃除も自分でやっています。お風呂掃除の当番もあり、たまに調理のお手伝いもやらせてもらっています。家事スキルが上がるとともに、自分が他の人に頼られる存在になることにより、精神的にとても成長しました。
息子とは今、月2回会っています。今はスマートフォンがあって本当に助かります。コロナ禍でも頻繁に連絡は取れるし、欲しいものもネットショップで買って、グループホームに直接送ることもできます。
本人がもっと言葉の力をレベルアップしたい(言葉の障がいがあります)というので、週に4回、ドリルを使ってリモート勉強会をしています。
電子マネーの使い方、電車の乗り方など、まだまだ習得してほしいことがあります。目的をもって中身の濃いつきあいをしていこうと思います。
いつか手放さなくてはいけないのなら子どもが若い時がいい
障がいのある子どもを育てていると「がんばって子どもより長生きしたい」と思います。でも、現実には難しい。
いつか手放さなくてはいけないのなら、子どもが若い時の方がいいと思いました。
例えば親が80歳でなくなったとき、子どもが50歳でいきなり、「一人で生きていきなさい」ってなったら、それは子どもにとってはとても辛く悲惨なことです。
子どもが若くていろんなことを吸収する力のある時に手放した方が子ども自身も環境に順応しながら、成長できます。親も成長を見守ることができ、少しは安心して老いていくことができるのではないでしょうか。
4年前、息子25歳の大冒険を引き留めなくて本当によかったと思っています。
今井美樹の「野生の風」…今も聞くたびに涙があふれます。